流出油の性状変化データベース
考察
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1.実験結果と考察

 

(1)夏期、冬期における経時変化実験

(2)経時変化実験による原油の蒸発率

(3)海水温度の中間条件における経時実験

(4)長期経時変化実験

(5)燃料油(重油)の経時変化実験

2.原油の物性によるグループ分類と経時変化パターンとの関連性の検討

3.未実験原油の経時変化推定方法


(3)海水温度の中間条件における経時変化実験

任意の条件での性状変化の推定方法を検討するために、通常の経時変化実験の中間条件(秋期海水温度17.5℃)に制御して、原油の性状変化を調査した。
回流水槽による経時変化実験は、海水温度を25℃(夏期)及び10℃(冬期)に制御して2種類の異なる波の条件で実施しているが、この結果から任意の温度条件での性状変化を推定することが可能か否か検討した。そこで、通常の経時変化実験で設定している条件以外の条件として、海水温度の中間条件での回流水槽による経時変化実験を行い、収集したデータから任意の温度条件での性状変化を推定する方法について検討した。
この検討では、弱い波条件下で、フォロザン・ブレンド原油、ワフラ原油、イスムス原油、アル・シャヒーン原油の4油種、強い波条件下で、アッパー・ザクム原油について実施した。
その結果、フォロザン・ブレンド原油、ワフラ原油については、粘度、水分、密度、蒸発率の各性状変化は概ね夏期と冬期の中間にあった。(図-1.7参照)
イスムス原油では、粘度、蒸発率は夏期と冬期の間に概ね位置していたが、水分、密度は48時間まで夏期より多少高い値を示した程度で、夏期と冬期の中間点には位置しなかった。(図-1.8参照)
アル・シャヒーン原油は蒸発率は夏期と冬期の間に概ね位置していたが、粘度、水分、密度は夏期と冬期の中間には位置せず、温度差による明確な性状変化の差異は見出せなかった。
強い波条件下で行ったアッパー・ザクム原油は粘度以外の性状は、夏期と冬期の間に概ね位置していたが粘度は冬期より多少高い値を示し、夏期と冬期の中間点には位置しなかった。

図-1.7 ワフラ原油での温度中間期における経時変化

以上のように、海水温度を夏期と冬期の中間温度にした場合、各性状変化は、夏期と冬期の中間に概ね位置する値を示すと判断できる場合と、部分的に中間に位置しない値を示す場合がある。性状変化が夏期と冬期の中間に概ね位置する値を示すと判断できるものは重質原油に、また部分的に中間に位置しない値を示すものは中質、軽質原油にみられる。原油中のアスファルテン等のエマルジョン化に寄与する成分が多い重質原油(ワフラ原油がこれに該当する )は、海水を取り込み安定なエマルジョンを形成するため、海水温度が異なっても粘度、水分等の上昇パターンに大きな違いはないが、エマルジョン化に寄与する成分が少ない軽質原油(イスムス原油がこれに該当する)では、初期過程で海水温度がエマルジョン化に大きく影響し、海水温度が異なると粘度、水分等の上昇パターンが大きく変化することが考えられる。

図-1.8 イスムス原油での温度中間期における経時変化


アル・シャヒーン原油のように安定なエマルジョンを形成し難い原油の場合は、夏期、中間期、冬期での性状変化データの明確な違いは示さないことがわかる。安定なエマルジョンを形成し難い原油の場合は、そのエマルジョンの形成時期の、ほんの僅かの乱れが、その後のエマルジョンの成長過程に大きく影響し、夏期と冬期で途中から性状変化の傾向が逆転する場合も生じるものと考えられる。
この結果をまとめると、
I.安定なエマルジョンを形成する原油の中間期の性状変化データは、夏期と冬期のデータのほぼ中間に位置する。
II.不安定なエマルジョンを形成する原油の中間期の性状変化データは、夏期と冬期のデータの中間点に位置するとは考えられないが、夏期と冬期の間には位置し得ると考えられる。
このように海水温度を夏期と冬期の中間温度にした場合、各性状変化は、ちょうど中間点にはならないが夏期と冬期の間に概ね位置すると判断できるので、任意の条件での性状変化を推定する方法としては、夏期と冬期の実験値から按分して求める方法(補間法)を用いることで特に問題はないと考えられる。後述の「流出油シミュレーション」ソフト上ではこの考え方により性状推定を行った。

(2)経時変化実験による原油の蒸発率

(4)長期経時変化実験