流出油の性状変化データベース
考察
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1.実験結果と考察

 

(1)夏期、冬期における経時変化実験

(2)経時変化実験による原油の蒸発率

(3)海水温度の中間条件における経時実験

(4)長期経時変化実験

(5)燃料油(重油)の経時変化実験

2.原油の物性によるグループ分類と経時変化パターンとの関連性の検討

3.未実験原油の経時変化推定方法


2.原油の物性によるグループ分類と経時変化パターンとの関連性の検討

回流水槽実験に用いた原油は、我が国に輸入されている原油の中から主要輸入原油を対象として軽質から重質にいたる42種類の原油を実施した。しかし、我が国には80種類におよぶ原油が輸入されており、これら全ての原油のデータ収集はまず困難であるので、何らかの方法によって、未実験原油の経時変化を推定する必要がある。そこで、収集した全原油の経時変化データを分類し、未実験原油の経時変化を推定する方法について検討した。尚、経時変化実験では粘度、水分、密度及び蒸発率の変化を調査しているが、経時変化を推定する場合には、粘度変化の推定の正確性が最も要求されるので、粘度変化に主眼をおいて検討した。
原油の物性による分類について、本調査と並行して進められていた「流出油の拡散・漂流予測モデルに関する調査」では原油を比重、動粘度、軽質成分量、流動点等によって13のグループにグループ化している。
そこで、本検討でも、このグループ化を利用して各グループの原油に粘度変化の共通性が有るか否かを調べることにした。但し「低流動点・特に軽質」グループの3グループは便宜上1グループとして取り扱い、「コンデンセート」及び「トップド原油」は除外した。
経時変化実験で性状変化データを収集済みの原油を物性で9グループに分類し、その経時変化データが分類したグループ内で関連性を示すか調査した。本検討において分類したグループ化を表-1.2に示す。また、その各グループ化ごとの粘度変化を図-1.12~1.15に示す。
そして、各グループの代表的な原油について、その粘度変化の違いをみるため図-1.16にまとめて粘度の経時変化を示す。これをみるとグループにより流出油の粘度変化には大きな違いがあることがわかる。

表-1.2 原油の物性によるグループ分類

グループ

性 状 の 範 囲

実験データ収集済

密度@15℃(g/cm3)

動粘度@50℃(cSt)

流動点(℃ )

該当原油

1.低流動点・特に軽質

0.79~0.84

1.1~4.2

-60 ~ -5

Murban,Umm Shaif,

Q.Marine,Berri,Attaka

Mubarras,Zakum

2.低流動点・軽質

0.85~0.87

4.1~6.1

-55 ~ -20

Arabian Lt,Dubai,Hout

Iranian Lt, Basrah Lt,

U Zakum,Isthmus

3.低流動点・中質

0.85~0.88

6~10

-45 ~ -10

Oman,Iranian Hy,Kuwait

Arabian M,Forozan B

AL Shaheen,Sirri

Alaskan North Slope

4.低流動点・重質

0.89~0.92

10~36

-40 ~ -25

Arabian Hy,Khafji,Wafra

Wandoo,AL Rayyan

Champion,Eocene, Maya

5.中流動点・特に軽質

0.79~0.87

1.8~2.1

7.5~12.5

Labuan,Lt Seria

6.高流動点・特に軽質

0.77~0.84

1.7~3.0

15~30

Bach Ho, Handil Mix, Kaji

7.高流動点・軽質

0.83~0.85

6~15

22.5~40

Sumatra Lt,Rang Dong

Rabi Lt, Nile B

8.高流動点・重質

0.86~0.90

22~100

30~40

Shengli, Widuri

9.高流動点・特に重質

0.92~0.97

150~600

5~17.5

Duri



I.「低流動点・特に軽質」グループ
このグループは、マーバン原油など7種類の経時変化データを収集した。その経時変化パターンには多少の違いがあるものの、粘度の上昇は僅かで、いずれも96時間後で1000cPを超えることはなく、また強い波では海水中に分散する傾向を示すことが特徴である。
このなかのアタカ原油は、同グループ内の他の原油の粘度変化パターンに類似しているが、同原油は南方産特有のパラフィン分が多い原油であり、軽質成分が蒸発すると固形化することがわかった。この傾向は同グループの他の原油では見られない傾向であるので、同一グループに属していても特異な原油である。

II.「低流動点・軽質」グループ
このグループは、アラビアン・ライト原油など7原油があるが、粘度が10,000cPを超え安定なムース油となるタイプから、10,000cPを超えずムース化まで至らないタイプなど、多岐の形態にわたっている。特にイスマス原油は、いずれのケースも安定なムース油を形成し、特に冬の強い波ケースでは中質グループのいずれの原油より粘度が上がり、このグループ内では特異な傾向を示している。

III.「低流動点・中質」グループ
このグループについて、このグループに属する原油では安定なムース油を形成するタイプと安定なムースとならずムース化傾向が弱いタイプがある。前者の安定なムース化するタイプはイラニアン・ヘビー原油、クウェート原油、アラビアン・メディアム原油などで、後者のムース化傾向が弱いタイプはアラスカ・ノース・スロープ原油、アル・シャヒーン原油、シリー原油などが該当する。この両者のタイプに関しては、原油一般性状でみる限
り特に差異はなく、タイプの違いを密度、アスファルテン含有量から分類することは難しく、他の組成的な違い(ワックス、レジン含有量等)が起因しているものと考えられる。

以上、低流動点・軽質と低流動点・中質の両グループの流出油の特徴を述べたが、この両グループには差異ははっきりなく、両者の特徴を区分することは難しい。いづれのグループにも、分散化直前の油から、安定なムース油を形成する油まで、多岐にわたって存在し流出油性状変化の推定が難しい。

IV.「低流動点・重質」グループ
このグループは、アラビアン・ヘビー原油など8油種の原油データが揃った。このグループの原油は安定で強固なムース油を形成する特徴がある。しかし、このなかのワンドゥー原油、チャンピオン原油は他の原油とは全く異なり粘度変化も僅かで、夏期には海水中に分散してしまい、あたかも低流動点・特に軽質グループのような挙動を示すことがわかった。この原因は、この両原油のアスファルテン分が極端に少ないことに起因している。即
ち、他の重質原油のアスファルテン分の含有量は3%前後であるのに対して、この両原油の場合は0.1%以下しか含まれないためにムース化しないで、むしろ水中分散化が起こった。
このことから、密度、粘度、流動点の3物性以上にアスファルテン分含有量がムース化に寄与していることがわかる。アスファルテン含有量をムース化の一基準としてみる必要があるが、一般的に公表される原油の性状にアスファルテン分の値が記載されることは希であるので、これに替わる別の指標をみる必要がある。この一方法として、アスファルテン分の替わりに、一般性状として通常記載されている残留炭素分による分類方法が考えられ
た。そこで、原油のアスファルテン含有量と残留炭素分との関連性を、原油について調査したところ、アスファルテン分と残留炭素分との間に高度な相関性があることがわかり、更に密度を加えアスファルテン分との重相関性を調べた結果では、アスファルテン分と残留炭素分の相関性を更に改善する効果があることがわかった。図-1.17は原油のアスファルテン分含有量と残留炭素分+密度との関連性を示している。

図-1.17 原油の残留炭素分とアスファルテン量の関係


V.「中流動点・特に軽質」グループ
このグループは、ライトセリア原油とラブアン原油の2原油を行ったが、いずれの原油も南方産原油である。南方産原油の特徴は、パラフィン分に富んでいることであり、強い波では短時間で海水中に分散し、冬期には固形化する傾向がある。いずれの原油も粘度変化は僅かで、96時間経過後でも1000cPを超えることはない。しかしこの2油種間では類似性があるが、両原油とも南方産であることから、他の産地の同グループに属する原油の傾向がわからない。

VI.「高流動点・特に軽質」グループ
このグループは、通常の海水温度では固形化するのが特徴で、軽質と性状パターン的にはほぼ等しい。バックホー原油は流出と同時に固まり、油塊を形成して海水表面上に浮遊するのみで、性状変化もほんの僅かである。

VII.「高流動点・軽質」グループ
このグループは、高沸点のパラフィン分に富むため、通常の海水温度では流動性を失い、固形化するのが特徴である。このグループに属する原油は、高沸点のパラフィン分に富むため、通常の海水温度では流動性を失い固形化するのが特徴である。ラビ・ライト原油及びハンディル・ミックス原油については、他の同グループの原油に比較して流動点が若干低いため、夏期においては固形化はしないが、海水の取り込み、粘度等の性状変化は小さ
く、固形化した状態と比較して流出油性状に大きな違いはない。

以上の「高流動点・特に軽質」と「高流動点・軽質」は流出油の状態変化に特に大きな差はなく1つのグループとして考えても問題はないと思われる。

VIII.「高流動点・重質」グループ
このグループは、勝利原油とウィデュリ原油の2種類を実験した。勝利原油は流動点が27.5℃と比較的低く、海水温度の高い夏期には、エマルジョン化から半塊状になるが、海水温度の低い冬期には油塊を形成する。ウィデュリ原油は流動点が高く、いずれの場合も油塊を形成するのみである。

IX.「高流動点・特に重質」グループ

このグループは、デュリー原油1種類で、この原油は流動点が10℃で低く、ムース油を形成する。しかし、他のムース油を形成する原油と異なり、海水の取り込みは少なく、夏期で50%台、冬期で、20~30%となる。

● 原油のグループ化とその流出油の特徴

原油のグループ化とその流出油の特徴をまとめると表-1.3のようになる。

表-1.3 原油のグループ化とその流出油の特徴

 

3.未実験原油の経時変化推定方法

経時変化データを原油の物性により分類し、未実験原油の経時変化を推定すれば、流出油性状変化推定値は無理にしても原油の物性によりおおよその流出油の状態を推定することは可能である。このことから、未実験原油の経時変化を推定する方法として、個々の原油の特性とその経時変化との間に関係式を見出し、流出油の性状値を推定する方法について検討した。各原油の密度、粘度等各物性値と流出油の粘度との単相関性を調べた結果では原油の密度が粘度変化と最も高い相関性を示したが、得られた回帰式による推定値は実測値と相当の隔たりを生じて、単一の組成で未実験原油の経時変化を推定することは難しいことがわかった。
一方、各原油の密度、粘度、アスファルテン量、レジン量、軽質留分中のアロマ分析および残油中の平均分子量に対し、流出油の粘度変化との重相関性では高度な重相関関係が認められた。原油の経時変化は、原油個々の物性、組成が相互に関連しあって生じるものである。原油の密度、粘度は原油の全体像を表わしており、アスファルテン量、レジン量はムース化への寄与を示唆し、そしてアロマ分、平均分子量はアスファルテン、レジンのムース化への寄与を左右する重要な役割をはたしていると考えられこの因子を採用し、重相関を求めた。
しかし、この結果も、ムース化傾向を示す一部の原油についての、より安定なデータの得られている一部のケースでの実験データを用いるなど、解析データにかなり制限を加えた上での相関性であり、また、詳細な原油分析が必要であることから、実際問題として、原油の物性値から、流出油の性状値を直接求めることは困難であると考えられる。
以上のことから、未実験油の経時変化を推定する方法としては、流出油の性状値は直接求められないが、前述の原油の物性によりグループ分類し、この分類から未実験原油の経時変化を推定することが、推定のより現実的な方法と考えられる。